筑前津屋崎人形巧房のロゴを、特許庁へ商標登録しました。
お気づきの方もいらっしゃいますが、2021年より作る人形にロゴを押しています。
理由は、津屋崎人形の模造品対策です。
今回の記事は、主に伝統的工芸品など地域ブランドの担い手で、
「模造品との差別化でブランドイメージを守りたい!」
「地域団体商標が申請できないから、模造品対策ができない!」ような人の参考になればうれしいです。
目次
模造品対策から商標登録へ
実は、ここ数年間で他人から津屋崎人形を誤解される売り方をされました。
またInstagramやTwitterで人形の写真と「知り合いが津屋崎人形を始めました」みたいな投稿も目にしています。
240年続く津屋崎人形は福岡県指定の民芸品であり、津屋崎人形振興組合が指定を受けています。
津屋崎人形振興組合員は筑前津屋崎人形巧房と原田半蔵人形店です。
原田半蔵人形店は現在閉めていらっしゃいます。
なので津屋崎人形を作っているのは筑前津屋崎人形巧房のみです。
よって今後は、ロゴが押してある人形=津屋崎人形ということになります。
そもそも初代から原田家が続けてきた津屋崎人形は、全盛期に4軒の工房がございました。
(4軒全員血の繋がりがある原田家でした)
津屋崎人形師の歴史(原田家系図)現在1軒だけとなってしまいましたが、先祖が紡いできたという歴史があります。
その部外者が「津屋崎人形」と名乗ることは大変遺憾に思い、対策として商標登録の運びとなりました。
戦争や疫病や不況を乗り越えて240年続けるというのは、異常な努力を必要とします(まさに今実感しています)。
津屋崎人形はここ数年メディアなどにも取り上げてもらい、やっと日の目を浴びた途端、模造品が出ました。
これが伝統的工芸の現状です。
伝統的工芸は気軽に生活に取り入れてもらうことをめざしていますが、手軽に模造を許すことを目指してはいません。(もちろん新たなものづくりは素晴らしいと思います)
これは、買い手にも不利益を与えます。
だから部外者が津屋崎人形をかたる行為や、買い手に誤解を与える行為を無視することはできません。
このロゴに津屋崎人形の先を託していきます。
模造品対策として検討したもの
まず、模造品対策としてオーソドックスな手法は、「津屋崎人形」を商標登録することです。
特許庁で商標登録されると、その名称を登録者以外が使えなくなります。
しかし、これはほとんど認められる可能性が低いです。
伝統工芸にありがちな「津屋崎(地域名)+人形(商品)」というネーミングの副作用とも言える現象です。
一般的には、「地域名+商品(サービス名)」の商標は、特定人に独占させることに適さないため、個人や企業は登録できない可能性が高いと言われています。
そのため、多くの伝統工芸品は「地域団体商標」を取ります。
これは2006年からスタートした、法人格を持つ地域団体が申請することで、地域ブランドを保護する制度です。
しかし裏を返せば、法人格を持たない団体(津屋崎人形振興組合)や個人は、申請できません。
いまから法人格を持つ組合を作るとなると、4社以上の協力が必要です。
そのため規模が小さい、「県知事指定特産民工芸品」の多くは申請できません。
(※もしかしたら所属する商工会に協力いただくと申請ができるかもしれません)
- ここは愚痴なので、読み飛ばしていただいて結構です。
- このように県知事指定特産民工芸品は、模造品に対して守備力がなく多くが泣き寝入りをしてきた歴史があります。
(事実、僕のところにも、全国の作り手から「模造品があると役所へ相談したが無駄だった」という相談はいっぱい来ました)
このようなことも伝統工芸が衰退していく一因でしょう。
県が工房を指定しているわけですし、地方自治体が地域ブランドの商標取得をサポートする制度ができたらいいですね。
しかし地方自治体としては仕事が増えるし、工芸だけでなく農畜産物も!となったら難しいでしょう。
可能性としては、国がトップダウンでそのような制度をつくることですが、特許庁と文化庁、農林水産省などの組織にまたがる問題に弱いのが官僚制です。
次善の策として、模造品対策としてロゴの商標登録する
このように手詰まりの状況で、僕が考えついたアイデアは、筑前津屋崎人形巧房のロゴを保護して、そのロゴを津屋崎人形の証明とするという作戦です。
オーソドックスな商標登録(ロゴと商品ジャンルを登録する)でロゴを保護し、メディアやSNSなどのあらゆる場面でロゴを広めることで、津屋崎人形とロゴを結びつけてブランドイメージを定着させることになります。
箱にもロゴをつけています。
人形には、柔らかい段階で陶芸印でロゴを押しています。
インクタイプのロゴスタンプも数種作っています。
箱や紙袋には通常タイプの印鑑を作りました。
たまに陶芸印を忘れてしまうため、彩色した人形に上から押す油性のタート印も作りました。
ロゴを商標登録するまでの手順
手順は簡単です。
出願→お金を払う→登録となります。
商標登録出願とは?
まず、経済産業省の「商標出願のいろは」を一通り読みます。
流れを含めて3割ほど理解できたらOKです。
上記の商標出願のいろはを読みながら、「商標登録願」を作成します。
難しく感じるかもしれませんが、所詮A4一枚なので、いろはで調べながらできるはずです。
郵便局で特許印紙なるものを12,000円分購入し、登録願に貼り付けて郵送となります。
特許印紙の取り扱いのない郵便局もあるので、電話で事前確認していきましょう。
近所の郵便局に「特許印紙ください」って言ったら「なにそれ?」と言われましたよ笑
登録査定が終わったら、お金を払う
上記の申請をすると、特許庁から「いま審査中だよ」みたいなはがきが届きます。
※商標登録願の出願人を、法人格のない「筑前津屋崎人形巧房」にしていたので、一度拒絶されました。
「個人名」に書き換え、手数料1000円くらい払って補正書を提出しました。
多少間違えても、後から補正書で修正ができます。
数か月後、登録査定が終わると再び手紙が届き、今度は登録料(28,200円)を特許印紙で払います。
商標登録にトータルでかかった費用は、40,000円ほどですね。
無事商標登録完了
さらに数か月後、「登録書」が届きます。
申請から約半年で、商標権をゲットとなります。
商標権は10年有効で、10年間の更新に38,800円×区分数が再び必要となります。
【まとめ】模造品対策としてロゴをフル活用
以上、伝統工芸などの地域ブランドの模造品対策として、法律上のいろいろ検討から商標登録の手順までの解説となります。
「津屋崎人形」では商標登録できないから、ロゴを商標登録したということです。
ここまで読んでくださった方はお気づきかもしれませんがロゴの商標登録だけでは、模造品の直接の対策とはなりません。
今後一生をかけて、ロゴの徹底した活用と周知、ブランディングが必要不可欠です。
- SNSやサイトでのプロフィールにロゴの活用
- すべての人形にロゴを押印
- 保管用の桐箱や化粧箱にロゴを押印
- 模造品対策としてのロゴの商標登録をSNSで周知
- 店の看板やのれんでもロゴを利用し、テレビ取材などでもロゴが移るように工夫
- ネットや紙媒体の記事などでも、ロゴデータをお渡しする
僕は上記のようなことで、地域ブランドとしての「津屋崎人形」と「筑前津屋崎人形巧房ロゴ」のイメージを融合させて、定着化を図っています。
「ロゴ印を押す」という工程が増えたことで、作業時間は大きく増えます。
正直10年で4万円弱という出費も痛いです。
しかし、ほとんど使わない地震保険や車両保険を解約してでも、このようなことに時間とお金を払うのは、今後のものづくりに賭ける宣誓のようなものです。
本気で向き合っている意思を示すことで、ファンになってくれる人もいると思っています。
なぜなら買い手が安心して買えるようにすることも、作り手の義務だからです。
大事なのは、「模造品の対策して、きちんと声を上げること」ではないでしょうか?
以上、地域ブランドで模造品に悩む人の商標出願の参考になればうれしいです。
【パブリックドメイン?】郷土玩具はフリー素材か?【著作権は?】