筑前津屋崎人形巧房は、福岡の各地方【津屋崎|上須恵|田熊|鐘崎】に根付いた山笠の人形飾りを作っています。
- 津屋崎祇園山笠
- 田熊山笠
- 上須恵祇園山笠
- 鐘崎祇園山笠
これらは津屋崎系の山笠とも呼ばれ、飾り山(大きく見物用の山笠)と舁き山(かついで走る小型の山)をあわせたスタイルです。
かつては津屋崎系山笠も博多祇園山笠(飾り山)のようなサイズでしたが、大正時代に街に電線がついたため、飾り山をそのまま低くしたような現在の形になりました。
つまり、津屋崎系山笠は【飾り山】と【舁き山】を兼ねているという特徴があります。
津屋崎系山笠は、博多の舁き山のように巨大な人形一体を使い切りではなく、十数体の人形を修復し、甲冑などを変えて毎年使います。
あくまで津屋崎人形師からの人形飾りの貸し出しという形を取っています。
博多祇園山笠などに比べ、もちろん価格は大きく違います。
複数の人形や使っているパーツの多さなどは博多の飾り山に近いですが、津屋崎系山笠は街中を走ることによる衝撃での損傷、雨・水による劣化、その修復がメインの作業となります。
また津屋崎系は「飾り山が走る」ということなので、一年ごとに作る消耗品の量も多くなります。
津屋崎系の山笠は人形だけでなく、館や城、岩や波など、山笠は大量のパーツで構成されています。
これらのパーツはひとつひとつ手作業で、毎年準備しています。
しかし、その作業はあまり公にされていません。
やはり博多の山笠が有名ですので、僕たちが作る山笠の人形のことを取材されたりすることが少ないのです。
制作背景が見えないと、下手をすると、毎年何もせずにお金だけもらっていると思われているのでは、、と心配しています。
そこで今年の山笠の作業の合間に、写真で記録しましたので、少しずつ紹介できたらと思います。
「大量に使うパーツを手作業でひとつひとつ作っている」と言うと、みなさんビックリされます。
私たちの作る人形飾りを知ることで、さらに山笠に愛着を持っていただけたら幸いです。
目次
山笠の消耗品(地域に配布)
山笠に大量に必要な消耗品です。
津屋崎などの山笠では、皆さんが持ち帰り玄関に飾り、魔除けなどに使われます。
消耗品は大量に必要なため、山笠の飾り付けの数ヶ月前から準備を始め、天候を見ながら屋外で製作をします。
ベタのこぶ
「岩とコケ」を表現しています。
大きな厚紙を切り出し、金紙を張って、岩の模様を描き、黒ペンキを塗って、しぶきを振りかけています。
ベタというのは、「立体ではない、平面の」という意味です。
ぺンキと金紙の境目は黒スプレーで塗装をしてグラデーションを出しています。
一つの山に20枚ほど準備するため、毎年100枚以上制作します。
特徴的な形で、ちいさなころは「バルタン」と呼んでいました(笑)
ベタの波
波を表現しています。
1つの山に40枚ほど準備するため、毎年200枚以上作ります。
こちらも厚紙から切り出し、すべてに白の絵具を塗り、薄い水色→群青とグラデーションになるように塗ります。
波の中の線なども書き入れ、ハケでしぶきをかけたら完成です。
白と青のバランスが重要で、実はきれいに波の形に塗るのには卓越した技能が必要となります。
ベタの階段や野地
厚紙を切って、模様などを書き入れています。
水玉
水しぶきを表現した、銀テープと玉をつけた竹ひごです。
素材となる竹ひごは、津屋崎の竹細工同好会のみなさまに準備いただいています。
山笠が揺れると竹ひごがしなり、躍動感が生まれます。
毎年100束ほど作りますが、1束につき10本の竹ひごを使っています。
つまり1000本の銀の竹ひごが必要になります。
筑前津屋崎人形巧房では竹ひごの1本1本に銀のテープを巻いて玉をつけていきます。
1000本を作るのは気が遠くなります(笑)
波花(ナンバナ)
こちらも波しぶきを表現したものです。
型紙を金型でカンカンたたいて切り出して、手塗りしています。
木を付けて、山笠の細かいところに差し込みやすいようにしています。
毎年50~60本を準備します。
山笠の館・楼門など(補修して長年使う)
毎年、塗料を塗ったり、紙を張ったりして補修するパーツです。
またドリル跡の修復や木部の交換も必須です。
先祖から受け継いだものが中心なので、回収して大事にメンテナンスします。
お堂
山笠の一番上に、最初に配置するお堂です。
お神輿となる、神様が入る場所です。
土人形には使わない特殊な塗料を使うなどして、耐久性を高めています。
このお堂は作られて、100年ほど経っているようです。
楼門・城門
赤や城で塗られた門です。
こちらも塗料で耐久性を高めています。
随所に光沢のある金紙やアルミでできた飾り(短冊)がついています。
飾りもひとつひとつ手作りで作っており、山が揺れたり、風が吹いたりすると「シャンシャン」と良い音がなるようになっています。
アルミ同士がぶつかり、「シャンシャン」と音が鳴ります。
横ふさぎ
山笠の側面をふさぐ楼閣です。
屋根の両端には、アルミをひとつひとつ打ち抜いた鴟尾が付いています。
鴟尾(しび)とは、瓦葺屋根の大棟の両端につけられる飾りの一種である。訓読みではとびのおと読む。沓(くつ)に似ていることから沓形(くつがた)とも呼ばれる。
Wikepediaより
ひとつひとつ手作りしています。
山笠には大量のアルミや金紙を使用しています。
アルミや金紙とはいえ、水がかかったりすると輝きが失われていくため、毎年かなりの数を交換します。
神様が乗る場所がうす汚れていてはいけませんし、光沢で見栄えが全然違いますからね。
縦型の城
山の上の方に左右に配置する城です。
随所に金紙や金属を使い、遠くから見ても存在感を出すようにしています。
城壁
立体のコブ
人形の足元に配置されることが多いです。
岩を立体で表現しています。
穴を開けて針金で固定するため、毎年の損傷が大きく、修復には時間がかかっています。
竹ひごと紙で作っています。
金紙の部分は数年前までは金箔を使っていましたが、金の高騰を受け、金紙にしました。
またここ数年で、強度の高い塗料で塗り替えたため、かなり損傷が減りました。
時代の変化を体感しています。
いくつも繋げたタイプもあります。
人や動物の足元で台場となる岩です。
松の木・桜・紅葉
山のてっぺんの左右や、表の中腹に差し込みます。
桜や紅葉は、造花(造木?)を大量に買って、木材に針金やくぎで固定して、テープで補強して完成です。
(津屋崎祇園山笠では、一度使用した桜と紅葉は各流れで保管してもらっています)
竹
こういった飾りでも、作ろうとすると丸一日かかったりします。
しかし紛失することも稀にあります。
筑前津屋崎人形巧房としては、毎年、消耗品制作やパーツの紛失、水没などで、現状維持をする作業に追われてしまいます。
けど、その中で、少しでも新しいものにチャレンジしたいとは思っています。
- 2022年は屋根裏に眠っていた数十年使っていない人形を大改修、数日かけて新たにサルやキジの飾り作成など、できる範囲で新たなチャレンジをしました。
この記事は、消耗品と返却品を明示し、皆様にそれを知ってもらう目的もあります。
山笠のメインとなる武者人形
津屋崎型の山笠では、表に3体、見送り(裏側)に1体の人形を飾ります。
金襴(きんらん)という、和の布地を大量に使用しますが、高価なため大事に使っています。
中は藁で、顔などは紙などで作られています。
真っ白な顔ではなく、よく見ると頬紅などでリアルに仕上げています。
厚紙に穴を開け、毛糸を通して、鎧を表現しています。
筑前津屋崎人形巧房では、獣や小さな武者人形も含め、これまで作ってきた数十体の山笠人形を保有しています。
保管場所が足りない問題や、人形の老朽化問題がありますが、手直しつつ大事に使っています。
ただし舁き出しの日(町中を走る日)に大雨にあたったりすると、ビニールをかけてもらっても大破することもあります。
こうなると翌年は修復だけでかなりの時間がかかります。
標題(山笠のタイトルと内容)
山笠につける標題も津屋崎人形師が作ります。
まずネットで大まかな内容を知らべ、歴史書などを使いワードにまとめます。
子どもたちにもわかりやすく、興味を持ってもらえるような内容を心掛けています。
過去に作ったことのある標題でも、歴史は上書きされていくもののため、毎年チェックしています。
博多の山笠を見習って、標題にはふりがなを付けるようにしたため、事務作業にかなり時間がかかるようになってしまいました。(笑)
【まとめ】津屋崎|上須恵|田熊|鐘崎の山笠
以上、山笠に使う人形飾りや標題のご紹介でした。
まだまだ、紹介していないパーツが沢山あるので、少しずつ写真を撮って追加していこうと思っています。
山笠の飾りは、工房の敷地内の置き場所の不足、建物の老朽化の問題もあります。
長年使われていないものが、倉庫の奥深くに眠っています。
また、山笠は地域や、人形師によっても作るパーツが違います。
(博多の山笠と比べても、津屋崎型と共通しているパーツ、まったく違うパーツもあります)
その違いに着目しても面白いかもしれません。
また、津屋崎を散策するときは玄関などに飾ってある山笠の飾りにもぜひご注目ください。
私たちの作る人形飾りを知ることで、さらに山笠に愛着を持っていただけたら幸いです。