一番よく知られている津屋崎人形に、「モマ笛」というものがあります。
「モマ」とは津屋崎の方言で「ふくろう」のことを意味し、かつては津屋崎で作られてた一般的な人形でした。
しかし2010年代から、津屋崎人形のモマ笛を作っているのは筑前津屋崎人形巧房のみという状況です。
転機は2018年、TBS「マツコの知らない世界」にて、当工房のモマ笛をマツコDXさんが「これが一番好きだわ~」と発言してくださり、全国的に知られるようになりました。
それからモマ笛は、個人・お店からたくさん注文をいただきました。
私たちの作る「津屋崎人形のモマ笛」は、ある程度の知名度を手にいれたと自負しています。
しかし、知名度の獲得と同時に、モマ笛のイラストを使用した文房具や、他の郷土玩具作家によるモマ笛をモチーフにした作品などが、無断で販売されるようになりました。
それらとは別に、こちらが監修して正規にコラボ製作されたものもあります。
この件につきまして、私の考えや法律上の状況を書きます。
「郷土玩具をモチーフに作品を作りたい!けど、法律上はどうなっている?」
「自分たちの作る郷土玩具が勝手にモチーフにされているから、どうにかしたい!」
という方々の参考になればうれしいです。
目次
そもそも郷土玩具の著作権とは?
今回は古くから作られている、招き猫や達磨(一般的なイメージ)の著作権を考えてみましょう。
ありとあらゆる作品に、最初に作った作者がいて、「招き猫人形を最初に作った人」や「達磨人形を最初に作った人」がいます。
現在の法律上、そのデザインを形にした時点で、著作権が発生します。
著作権とは簡単にいうと、「作ったものをどう使われるか決める権利」です。
創作すると同時に発生し、他人の著作物を使用するには許可が必要となります。
製作者の死後70年で、著作権は消滅します。
現行の著作権法は、1971年に施行されてました。
知的財産権などの考え方が一般に認知されてきたのも、最近のような気がします。
古くからある郷土玩具は「みんなで同じものを作っていいやん!」で発展してきたという歴史があります。
それは地方それぞれの商圏内で製造と販売が完結していたからです。
自分たちの地域で売れば、生活ができていた時代も終わりです。
現在はインターネットでものが売買される時代です。
簡単に誰でも全国を相手にクリエイターになれます。
だからこそ、「著作権を侵害しない、させない」ことは、ものづくりを続けるうえで必要不可欠となっています。
古くからの郷土玩具は著作権が消滅していますが、新しいものには当然著作権が発生しています。
なぜ死後70年で著作権は消滅する?
創作活動は先人の成果の上に成り立っていることは否定できないため、創作後一定の期間が経過した場合は、恩恵を受けた社会の発展のために公有の状態に置くべきとの価値判断による。
Wikepediaより引用
著作権の消滅は、社会の発展のための公有の財産(パブリックドメイン)という考え方からきています。
パブリックドメインとは?
簡単にいうとコンテンツの著作権などが消滅し、「フリー素材(みんな使ってよいよ!の状態)」となった状態を「パブリックドメイン」といいます。
よって、著作権切れの郷土玩具は、パブリックドメインということになります。
「達磨」や「招き猫」の現在の状態は、まさにパブリックドメインで、社会の公有の財産となっていることは理解しやすいと思います。
それを源流にさまざまな招き猫や達磨が創作され、個々に著作権を発生させています。
パブリックドメインのメリットは「著作権が切れることで派生し、文化となる」ということですね。
「概念」としての皆が思い浮かべる達磨や招き猫は、まさしく文化です。
逆にいえば、古くからある日本文化のデザインは著作権フリーになっているということですね。
モマ笛の著作権は?
モマ笛は、江戸時代から津屋崎でつくられた人形です。
それだけを考えると、パブリックドメインだと予想する人が多いでしょう。
しかし、かつて作られていたモマ笛も、手掛けた人形師の方々の特徴があり、全然違うものでした。
また、当工房で江戸時代に作られたモマ笛はリアルなフクロウの形でした。
当工房では、時代時代でモマ笛の型をつくり替えています。
つまり現在世間に広く認知されているモマ笛は「筑前津屋崎人形巧房のオリジナルで、製作されて年数も浅い」のです。
しかしテレビや雑誌だと、当工房の現在のモマ笛が「津屋崎に伝わる、昔からのモマ笛」だと紹介されるます。
そのため、パブリックドメインだと誤解されているのだと思います。
そして、現在の当工房のモマ笛をモチーフに、作家などが気軽に創作してしまうという状況になっています。
郷土玩具をモチーフにしたい場合どうする?
全国にはモマ笛のように古くからある(と思われている)デザインはあります。
それらをすべてパブリックドメインだと誤解し利用してしまうと、著作権法違反になる可能性がでてきます。
そのため郷土玩具をモチーフにする場合、「作り手に許可を取る」というのが、一番筋が通っています。
正規の監修品だと格も上がりますし、作り手が宣伝してくれるなどのメリットがあります。
裏を返せば、その作り手を特定できないほどたくさんの作り手がいる場合や、広範囲で作られいる場合は、パブリックドメインになっている可能性が高いです。
それでも明確に「この作り手の物をモチーフにしたい」という場合は、その本人や、自治体や、製作組合に確認しましょう。
モマ笛のように「実は改良を重ね、最近できたデザインだよ」という可能性もあります。
また、いくら著作権フリーといえども、新たな作り手が参入し乱立すれば、「昔ながらの製法で、同じものを作り続けている作り手は食べていけない」という状況もありえます。
私は多くの郷土玩具や伝統工芸の作り手が廃絶している要因のひとつだと思っています。
どうも日本文化は、知的財産権が希薄な風潮があります。
僕のまわりの多くの作り手が「新しいものを作ってさえも、すぐに模倣される」とぼやいています。
作り手ができる著作権切れの郷土玩具の保護は?
古くからの郷土玩具の作り手の目線でいうと、祖先が作ってきた郷土玩具を大事にしたい!という気持ちがあります。
しかし、それをそのまま作っているだけでは著作権が切れてしまい、勝手にモチーフにされたり、模造品を作られることへの対策ができません。
・年々改良を加え、時代にあったデザインを作っていく。
・商標権や意匠権で保護する。
・著作権が切れていないと思われる場合は、作者に違反の可能性をメールで連絡する。
これらすべて、現代のものづくりに求められるスキルだと思います。
津屋崎人形でも商標権を取得し模造品対策をしましたし、無断でモマ笛をモチーフをされた作家さんには、この記事で書いたようなことをメールで送っています。
モチーフにされて作品を作られている方には、メールであくまでご理解とご協力をお願いするスタンスにしています。
モチーフにするくらい郷土玩具が好きな場合もありますし、悪意がない人がほとんどです。
これを機に郷土玩具の理解を深めていただけたらと思います。
作り手は「歴史を伝えよう!」&「歴史を知ろう!」
「その郷土玩具について調べたときに情報が出てくるようにする」ことだと思います。
あまりにも調べても分からないことが多すぎる印象です。
作り手が顔が見えると、模造もしにくいでしょうし、モチーフ希望者は連絡を取ることもできます。
また、歴史をしっかりと伝えると、周りはパブリックドメイン(著作権フリー)であるか否かも判断できるでしょう。
「かわいいから」や「有名だから」だけでなく、その歴史や情報を調べ、理解した上で行動すべきだと思います。
昔からあるもの=フリー素材と決めてかかるのは危険です。
パブリックドメインでない場合は許可を取る必要があります。
パブリックドメインであっても、製作者サイドの許可を得たほうがいいです。
いまは多くの作り手がSNSなどを運用しています。
許可があれば、製作者サイドから宣伝してもらえることも多いです。
許可がなければ、SNSなどで購入者からのタグ付け等から、勝手にモチーフにされた商品が発覚することになります。
そのたびに「勝手に製作されたもので、監修していません」とお答えすることになります。
これは、クリエーター職の双方にとって、マイナスイメージになるのではないでしょうか。
事前確認の作業は面倒だと思いますが、長い目でみると作品のためになると思っています。
知識や理解は作品の深度を深めるはずです。
【まとめ】著作権を学ぶことは、作り手に必須の時代
「いつのまにか、他の作家が自分の作品をモチーフにしている!」状態がどれだけ苦しいか?
同じ作り手やクリエイターなら、容易に想像できるはずです。
郷土玩具に限らず、作り手は著作権を含めた知的財産権を勉強すべき時代なのかもしれません。
相互の理解と協力で、日本の文化やものづくりの発展へとつながればいいと思います。
以下のような本は、しっかりと許可を得て製作されています。
また、フェルトで作ったものを販売などすると、権利侵害の可能性がある旨も記述があります。
ものづくりは楽しいですが、「最低限の知識武装や勉強する姿勢」は必須の世の中なのかもしれません。
僕も勉強の日々です。