「伝統工芸」という言葉はよく使われますが、実態はかなり曖昧で、定義をしっかりと説明できる人は少ないです。
そこで僕が(業界初!?)法学部法律学科卒の伝統工芸職人のプライドをかけて、わかりやすく解説したいと思います。
伝統工芸に携わる方や、日本の文化に携わる方に、参考にしていただけると幸いです。
法律上、伝統工芸品といわれているものには、国指定と地方自治体指定があります。
目次
定義①国指定の伝統工芸
国指定は経済産業大臣指定伝統的工芸品です。
シンボルマークがあるので、みたことある人も多いかと思います。
(画像出典:伝統的工芸品産業振興協会)
このマークを付けられる工芸品は、伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)に定められています。
この工芸品に入るのは、めちゃめちゃ要件が厳しいです。(技法や原料や、職人の数など)
しかし、国の支援の対象となり、補助金や集合展示会などが支援されます。
国をもってして保護し、技術を継承させる目的の法律ですから当然ですね。
福岡で言うと、
上記7品を見ても、厳かな雰囲気がありますね。
品目ごとにいくつもの工房があり、かなりの数の職人さんがいらっしゃるイメージです。
狭義の「伝統工芸」には、上記の法律の適用を受けている工芸のみを指すこともあります。
↑全国的に見たい方は青山スクエアのサイトが良いかと思います。
定義②地方自治体指定の伝統工芸
地方自治体指定だと、県知事指定特産民工芸品という名称で呼ばれます。
県の指定要件をクリアし、指定をもらいます。
私たちが作る津屋崎人形も福岡県知事特産民芸品となります。
※なお、最大4軒あった津屋崎人形の製作工房も、現在は筑前津屋崎人形巧房のみとなってしまいました。
なので、筑前津屋崎人形巧房が作る人形=現存する唯一の津屋崎人形として頑張っています。
福岡県の特産民工芸品は、以下のようになります。
(各リンクはわかりやすいものを独断と偏見で選びました)
- 博多曲物(福岡市)
- 博多鋏(福岡市)
- 津屋崎人形(福津市)
- 木うそ(太宰府市)
- 博多張子(糸島市ほか)
- 福岡積層工芸ガラス(福津市ほか)
- 博多独楽(福岡市)
- 博多おきあげ(福岡市)
- 今宿人形(福岡市)
- 孫次凧(北九州市)
- 八朔の馬(芦屋町)
- 英彦山がらがら (添田町)
- 籃胎漆器(久留米市)
- きじ車(みやま市)
- 八女手漉和紙(八女市ほか)
- 八女石灯ろう(八女市ほか)
- 掛川(大木町ほか)
- 赤坂人形(筑後市)
- 鍋島緞通(久留米市)
- 柳川神棚(柳川市ほか)
- 八女竹細工(広川町ほか)
- 筑後和傘(久留米市ほか)
- 八女和ごま(八女市)
- 杷木五月節句幟(朝倉市)
- 八女矢(八女市ほか)
- 城島鬼瓦(久留米市)
- 久留米おきあげ(久留米市)
- 大川総桐タンス(大川市ほか)
- 大川彫刻(大川市)
- 大川組子(大川市)
- 柳川まり(柳川市)
- 棕櫚箒(うきは市)
- 八女すだれ(広川町ほか)
- 天然樟脳(みやま市)
上記の34品となります。
福岡の中でも歴史ある八女市や大川市が目立つのは、農作物の加工や造船などの活動が手工業に移った名残でしょう。
数多くありますが、全てを頭に浮かべられる人は少ないのではないでしょうか。
【将来どうなる?】県知事指定の伝統工芸の問題・課題とは地方自治体指定工芸品の課題
自治体指定の各工芸品をネットで調べても、トップに公式HPが出ないところが多く、そこらへんも予算やノウハウが少ないのかと思います。
Google検索からも地方自治体指定の難しいところが出ていますね。
私自身、地方自治体指定の工芸品を作っていることは、とても誇らしく思っています。
しかし地方自治体指定だと、公費での支援制度は、ほぼない現状です(普通の自営業と同等)。
ゆえに自治体指定の工芸品というのは、
- 工芸品のステータスとしては弱い。
- 県外での認知度が低い。
- なのに地元では「あそこは税金で支援されている」と思われている。※「県からお金もらってるんでしょ?」と聞かれます笑
このような状況になっています。
津屋崎人形も、地元の人からも「津屋崎人形の定義がよくわからない」と言われます。
お客さんからもたまに「これは博多人形ですか?」と聞かれます。
けっこうテレビに出ていたりする津屋崎人形も、福岡でまだまだ知名度が低かったりと、課題が多いです。
これは福岡だけでなく、多くの地方自治体指定工芸品で同様の状況と言えます。
しかし裏を返せば、地方自治体指定工芸品には伸びしろがある
展示会で販路が開拓できたら、
SNSで見せ方を工夫したら、
適正な値段を付けることができたら、
活力がある後継者がいたら、などなど
課題は多いですが、現在まで生き残ってきたポテンシャルを見るに、たくさんの伸びしろが残されています。
またそれ以外にも、長く続けていた職人が条件をクリアし、地方自治体指定を新規に取ることもあります。
私自身が工芸品を作る立場になって理解したのですが、歴史やノウハウも無しに、新規のものづくりを始め、商いとして続けていくことはものすごい大変です。
しかし、少なくともこれらの段階をクリアしてきて、現代に残ったものが地方自治体指定までに至っているのです。
日本全体をみて、これを活用しない手はないと思っています。
これは、伝統や歴史がなによりも大事だという話ではありません。
私は、歴史にあぐらをかかないように気をつけようと思っています。
いいものを作ることを大前提として、歴史はそれに付加価値をつけてくれます。
ご先祖様の歴史に感謝し、あくまで利用させてもらうイメージをもっています。
結論:地方自治体指定の工芸品(またはそれに近いもの)には、日本のものづくりを支えるポテンシャルが眠っている
長文、駄文失礼いたしました。
結論としては、工芸品が長く続いているには理由(高い技術、地元の応援、良い品、作り手の人柄、購買意欲を刺激する物語など)があり、そこをアピールする場を増やすことで、ある程度の生き残りが可能になると思っています(後継者探しも含めて)。
長く続いているというのは、一つ使える刀を腰に差している状態です。
各々がその刀を振り回し、日本中や世界を駆けまわれば、日本はもっと元気になるでしょう。
その過程で、新しい武器(新しい知識経験、ノウハウ)を身につけていくことが最も重要なのではないでしょうか?
この話が、ものづくりに携わる人の元気になればいいなと思っています。
また今後も、ものづくりに携わる人に役立つ情報を垂れ流していきたいと思います。
【将来どうなる?】県知事指定の伝統工芸の問題・課題とは