津屋崎人形 商標の取得について、実体験をもとに記録します。
筑前津屋崎人形巧房では、地域名+役務という形で津屋崎人形の商標を取得しました。
240年の歴史をもつ「津屋崎人形」。
その名を未来に残すために、私たちはひとつの挑戦をしました。
このたび、「津屋崎人形(つやざきにんぎょう)」の名称が正式に商標登録(登録第6924426号)されました。
つまり、江戸時代から続く津屋崎の土人形の名が、法的にも守られるかたちとなりました。
登録情報
商標登録第6924426号(第28類・人形)
出願日:令和5年2月15日
登録日:令和7年5月1日
商標権者:原田翔平

津屋崎人形は「地域名+工芸名」商標という壁
「津屋崎人形」という名称は、地名(津屋崎)+一般名詞(人形)の組み合わせです。
このような商標は、特許庁の審査では通常「一般的な地名+商品名」と判断され、特定の権利として登録されることが難しいとされています。
そして実際に、初回の審査では拒絶査定を受けました。
しかし、津屋崎人形が長年にわたりこの地で受け継がれてきたこと、文化的な評価を受けていることなどを不服審判の過程で丁寧に立証しました。

知財支援センターのサポートと不服審判
この申請の過程では、福岡県知的財産支援センター(INPIT福岡)の助言を受けながら、地域文化の保護を目的とした商標の意義や証拠資料の整理を進めました。
240年以上の歴史、新聞・出版での紹介、展示会実績など、「津屋崎人形」という名称が実際に地域の象徴として定着していることを示すことで、最終的に特許庁審判部がその独自性を認め、登録を許可しました。

地域団体商標との違い|津屋崎人形が個人で商標登録された理由
今回の登録は、地域団体商標制度(地域ブランド商標)によるものではなく、一個人(原田翔平)が商標権者となる登録です。
地域団体商標は、商工会議所・協同組合などの団体が申請主体となり、「地域の特産品や伝統技術を共同で保護する仕組み」です。
一方で、今回の「津屋崎人形」の登録は、組合などを持たない個人の職人が単独で取得したケースであり、伝統工芸の世界でもきわめて珍しい事例です。
つまり――
・組合や法人ではなく、個人として地域文化を守る立場から登録を実現した
・それでも、文化的・地域的な独自性が十分に認められた
という点で、「津屋崎人形」は個人による地域文化商標の成功例となりました。
津屋崎人形を文化として残していくためには、制作だけでなく、
その背景や意味をきちんと記録することも重要だと考えています。
実際に、以下の記事では、津屋崎人形が育まれてきた土地や信仰、
考え方について詳しく紹介しています。

全国の伝統工芸にとっての先行事例
この登録は、全国の伝統工芸や郷土玩具にとっても大きな意味を持ちます。
日本各地には、「〇〇焼」「△△織」「□□人形」といった地域名を冠した工芸が数多く存在します。
その中にも法人組合などを持たない、家内工業規模の伝統工芸も多数あります。
しかし、その多くは名称が一般名詞化しており、「商標として守りたいが登録できない」という課題を抱えています。
津屋崎人形の登録は、
・個人が担う地域ブランドとしての歴史的実績
・行政支援機関との連携
・特許庁の文化的意義の明確化
によってその壁を乗り越えた、地域名+工芸名登録の新しい前例です。
商標は“文化の盾”
今回の商標は、「津屋崎人形」という名前を独占するためではありません。
むしろ、無関係な製品への流用や誤用を防ぎ、文化的信用を守る盾としての商標です。
商標は、ビジネスの道具である前に、文化を守るための仕組み。
この土地の名を冠した人形を、正しいかたちで次の世代へ渡していくための制度です。

地域の名とともに
地域の名前を守ることは、伝統を未来へ渡すこと。
これから、この土地の土から生まれた人形とともに、「津屋崎人形」という名前を誇りをもって守っていきます。
津屋崎人形八代目
原田翔平
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