【将来どうなる?】県知事指定の伝統工芸の問題・課題とは

以前、福岡県には県知事指定の工芸品が34品目あるということを書きました。

この県指定の工芸品には「現在まで50年以上の継続している歴史」があることが条件です。

一度廃絶してしまうと技術の再興は難しく、50年とは「人生の大半をそのものづくりに賭けた」ことの証です。

津屋崎人形も現在まで240年の歴史を持ち、県知事指定の工芸品として指定をいただいております。

しかし、現在福岡県は
50年の継続したものづくり」→「ものづくりを再興して12年

という要件の緩和を検討しています。

出典:福岡県HP

なぜたった12年なのか
その根拠は国の伝統工芸士の受験資格が12年以上だからだそうです。

出典:福岡県HP

私は先ほど、このことについて福岡県に意見書を提出いたしました。

このことについて、私の意見を読んでいただきたいので、原文を見やすくしたものを掲載いたします。

(あくまで私個人の意見で、異なった意見も必ずあるかとは思います。)

このことについて意見が生まれた方は、よかったら福岡県の意見公募に提出ください(2021/10/08追記、現在この意見公募は終了しています)。

どうぞよろしくお願いいたします。

県知事指定の伝統工芸指定改正への私の意見

工芸品の指定の可能性を広げるため但し書きを追加し、改正案のように要件を緩和することにつきまして、
反対を申し上げます。

理由は以下の3点です。


①実質12年で「県知事指定特産工芸品」と言えるのは陳腐化のリスクがある。

改正案の但し書きのように「再興から継続して12年」となりますと、確かに工芸品に該当する間口は広がるかと思います。

しかし、それは陳腐化のリスクと隣合わせです。


例えば、サラリーマンとして働き、引退後に年金をもらいながら半ば趣味のように、再興したものづくりを行えば「県知事指定特産工芸品」となることができます。


現在の工芸品の後継者不足の状況ですと、未来の「県知事指定」はそのような老後の余暇の商いとなり、「継続50年」の要件は形骸化します

再興による乱立では「県知事指定」のブランド価値の低下に繋がります。

国指定の伝統工芸との差は開くばかりでしょう。


これでは工芸品の可能性を狭めることになるのではないでしょうか

継続50年を成し遂げた人物の意思に関係せず、12年の再興による「県知事指定」も疑問です。

いつでも再興できる工芸品を誰が応援したくなるでしょう。


継続50年の要件は、「一生分の人生を賭けてものづくりに取り組んだ」結果です。

工房には、「県指定」の古い看板を掲げています。

例えば、再興したものづくりはこの12年要件で「県知事指定再興工芸品」として認定する。

更なるステップとして、50年の継続で「県知事指定」、発展と100年の継続で「国指定」となるなど、

ものづくりの発展の道筋を作ることは、大賛成ですけどね。

②伝統工芸士の実務12年が「県知事指定の」根拠とはならない。 

確かに、伝統工芸士は12年以上の実務経験を要します。
しかし、伝統工芸士の実務12年は、あくまで国指定の伝統工芸士の受験資格の1要件にすぎません。

またその受験資格を得ているのは、厳しい国の伝統工芸の要件(ものづくりの継続100年以上等)を前提としています。
そこから実技等の厳しい試験があるのです。


12年の実務が「県が指定するに値する技能」とは言えません。

私は現在実務5年ですが、あと7年で父(実務50年)と同等の技能になるとは全く思いません。

さらに仮に私が津屋崎人形を廃絶させ、指導者がいない状況で資料や文献で再興させたとしたら、技能の習得はなおさら遅いはずです。


何年で技能が習得できるかは定かではありません。
伝統工芸士の資格保有者の実務経験の平均を取ったら、技能習得年数の傾向は把握できるのかもしれません。



③まずは廃絶させないことを優先していただきたい。

1番大事なことは人生を賭けてものづくりをしたいと思ってもらうことです。


再興することが容易になることと、伝統工芸を守ることは、必ずも同義ではないと思っています。

津屋崎人形を廃絶させないために購入して下さっている方も多いです。

また、私がリスクを取って家業を継いだため、応援してくれる方々もいらっしゃいます。

(もちろん県庁職員の方々もです)

再興することや県知事指定を取りたいと思ってもらうことは必要です。
しかし優先すべきは既存の県知事指定の価値を高めることではないでしょうか。

例えば、模造品を防止するための商標登録のサポートや助成、販路拡大のための独自補助金、ネットストアの開設サポートなど、現状の34品目にも課題は山積みに見えます。


課題を克服して「県知事指定はすごい」と思ってもらうことで、結果として、人生を賭けてものづくりをしたいという人が増えるかと思います

そのような整備がなく、品目だけ増やしてしまうと「県知事指定」というブランド価値が低下するのみで、地域産業資源とほぼ同義にもなってしまいます。


それでは既存34品目にも悪影響で、後継者不足はますます深刻になるでしょう。

県知事指定の伝統工芸指定改正への私個人の意見・まとめ

以上3点より、私は改正案のように要件を緩和することにつきまして、反対を申し上げます


私は県知事指定の特産民芸品を作ることができる、ということに誇りと覚悟を持って、今後も取り組んでまいります。

長くなりましたが、このような意見公募を実施してくださりありがとうございます。


ご査収のほど、どうぞよろしくお願いいたします。  


以上が私の意見です。

私としては、伝統工芸については、もっと議論されるべきだと思っています。 
議論にならず、いつの間にかよく分からないことになっていることが1番もったいないと感じるからです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

2021/10/07追記

福岡県の担当者より、説明を受けました。

今回の改正については、パブリックコメントには私以外の反対意見は出なかったため、改正は確定しましたのとことです。

その時に気づいたのですが、


この改正により、未来で津屋崎人形が廃絶したとしても、誰かが再興して12年やれば、「津屋崎人形」として、公的に認められるのです。

原田一族で最大4軒あった津屋崎人形の工房も、現在は筑前津屋崎人形巧房のみです。

私は唯一の後継者として、やれるだけの努力はしているつもりです。

誰でもかまわず、再興して12年で、公的に認められた「津屋崎人形」になるのなら、いま私が頑張っている意味ってなんでしょうか?

おそらく多くの伝統工芸をされているかたは、「自分にこのものづくりの存続がかかっている!」とのプライドがあると思います。

私は今回、その誇りを奪われた気がしました

いま日本全国で、この要件緩和の動きがあるようです。

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ツツミ サヨコ

1980年に娘が産まれ、翌年貴店でひな人形(中)の対と小さな雛人形セットを購入しました。
それから42年の間、(中)の雛は箱に仕舞うことなく一年中 棚上に飾っています。
仕舞うことをしなかったせいか、娘は晩婚となりました。
娘に女児が産まれて3年。
(桃の節句時期に)雛は我家の棚から娘の家に毎年出張しております。
雛人形を毎日眺め、皆とは異なる事にとても満足しています。

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